会社を作る際には、経費削減のためにバーチャルオフィスを利用すると便利です。しかし手軽に利用できるからといって、その契約も簡単に行えるわけではありません。
実は契約時には提出する書類も多く、チェックされる項目がいろいろとあります。審査で落ちることのないように、バーチャルオフィスは契約時に何を確認しているのかを知っておくとよいでしょう。
目次
1 バーチャルオフィスの審査が厳しい理由
バーチャルオフィスを契約する際には、実は厳しい審査があります。これは法律で定められたもので、指定された書類を揃えなければ契約できません。
1-1 犯罪収益移転防止法が背景に
2008年、バーチャルオフィスを契約する際には身分証明書を提示することが義務付けられました。
この本人確認を求める“本人確認法”は従来、金融機関でのみ適応されていたものですが、バーチャルオフィスもその対象になったというわけです。
その理由は、バーチャルオフィスを利用してマネーロンダリングを行ったり詐欺を行ったりする犯罪が急増したためです。
そこで「組織犯罪処罰法」と「本人確認法」をひとつにした「犯罪収益移転防止法」が施行され、バーチャルオフィスの契約も厳しく審査されるようになったのです。
1-2 ほかの契約者に迷惑となる
バーチャルオフィスを利用する側としては、面倒な手続きをせずに契約ができればと思いことでしょう。
特にコストを抑えて会社を立ち上げる場合、バーチャルオフィスのように格安で利用できるサービスは不可欠です。
しかしバーチャルオフィスはひとつの住所を複数の会社で共有するという性格上、1社でも犯罪を手掛けるようなことがあれば、それを利用するほかの会社も疑いの目を向けられることになりかねません。
2 バーチャルオフィスの審査でチェックすること
バーチャルオフィスの契約で必要な審査内容は大きくわけて2つあります。まず本人確認をすることと、事業内容がどのようなものであるかです。
2-1 本人確認
バーチャルオフィス事業運営者は犯罪収益移転防止法により、契約者の本人確認をすることを義務付けられています。
もし身分証明書の提示なしに契約をすると、是正命令を受けることになります。過去にこの是正命令を拒否したために、逮捕され罰金30万円の略式命令を受けたバーチャルオフィスの運営者もいます。
2-2 事業内容
バーチャルオフィスの契約では、事業内容についても聞かれます。もっともこれは金融機関における融資申し込みのように事業計画の内容や数字などを細かく精査することが目的ではありません。あくまでも実体のある事業であるかどうかを確認するためです。
詐欺などの犯罪に利用されることがないようにチェックしているので、きちんと事業内容を説明すれば問題ありません。
ただし話の内容に整合性がないなど不自然な点が多ければ、審査を落ちる可能性があります。経営者として自分の事業内容と収益確保のビジネスモデル程度は説明できるようにしておきましょう。
3 バーチャルオフィスの審査で必要な書類・チェックされること
続いて、実際に契約時に必要となる書類をご紹介します。これらすべてが必要になるかどうかは業者によりますが、用意しておくにこしたことがないので参考にしていただければと思います。
3-1 身分証明書
基本的に本人の写真がついた身分証明書を用意することになります。具体的には免許証やパスポート、個人番号カードなどです。
ほかに現住所が確認できるものとして、3ヶ月以内に支払った公共料金や税金の領収書コピーが必要となる場合もあります。
住所が確認できるからと一般郵便物、たとえばDMや荷物の送り状などを提出するケースがあるようですが、これは認められないので注意しましょう。
3-2 住民票
本人の住所確認のために、住民票が必要な場合もあります。住民票は市区町村役場のほかにも、コンビニに設置されているマルチコピー機でも取得できます。
マイナンバーカードあるいは住民基本台帳カード(パスワードも必要)のコードを入力すれば、200円でプリントできるので便利です。
3-3 印鑑登録証明書
押印する印鑑が本人のものであることを確認するために必要になります。発行日より3ヶ月以内のものでなければいけないので注意しましょう。発行してもらうためには印鑑登録証が必要になります。
3-4 事業計画書あるいは業務経歴書
必要としない業者もありますが、業務形態を確認するために必要書類に含まれることがあります。
また法人として契約する場合には不要でも、個人で契約する際には提出を求められるケースもあります。
もちろん収益性などを精査するのが目的ではなく、実体のある会社あるいは事業であることを確認するためです。
3-5 会社案内あるいはホームページURL
事業計画書の代わりに会社案内あるいはホームページのURLを提示するだけで済ませる場合もあります。目的はやはり、事業の実態を把握するためです。
あまりにチェックが厳しいと申し込みが面倒に思えるかもしれません。しかし逆に言えば、それくらい厳しくチェックをしてくれれば、バーチャルオフィスを不正利用する人がいなくなるので安心して利用できます。
同じ建物で不正利用している個人あるいは会社があると、無関係であっても自分あるいは自分の会社も疑いの目で見られるかもしれません。そうなると顧客との取引がなくなってしまったり、金融機関から融資を受けることができなくなったりする可能性もあります。
3-6 口座振替用の口座情報と届け印
バーチャルオフィスの料金を口座振替としている業者であれば、引き落とし用の口座とその届け印が必要になります。
3-7 法人登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
法人として契約する場合に必要になります。“履歴事項全部証明書“とは法人登記簿謄本の正式名称なので、両方とも同じものです。
取得する方法は法務局の窓口で申請するか郵送依頼するか、あるいは取得代行サービスの利用があります。
法務局の窓口で申請するためには、法人印鑑カードを法務局内の証明書発行請求機に入れることで、整理番号票を発行されます。
そこに記載されている収入印紙の金額分を購入して、窓口に提出すれば法人登記簿謄本を取得できます。
法人印鑑カードがなくても、登記事項証明書交付申請書に会社名や本店所在地を記入して窓口に提出すれば取得が可能です。
この書類を返信用封筒とともに法務局に郵送すれば交付してもらえます。その際には、登記簿謄本の取得部数×600円の収入印紙を貼っておく必要があります。
4 チェックの厳しいバーチャルオフィスほど安心できる
バーチャルオフィスを利用するためには、本人確認は必須となります。そのために必要となる書類は業者によって異なり、なかには厳しいと思えるところもあるでしょう。
しかしバーチャルオフィスを利用した犯罪があることも事実ですし、そのような履歴のあるビルを会社の所在地にすると後で困ることにもなります。
取引先への信用力にも影響がありますし、銀行の法人口座も開設が難しくなります。
特に2011年には、警察庁が投資詐欺などで利用した法人口座のほとんどがバーチャルオフィスに登記されていたことを発表し、全国銀行協会とゆうちょ銀行にバーチャルオフィスで登記した会社の法人名義口座開設を厳格化するように求めています。
もちろんバーチャルオフィスの住所で法人登記をすると法人口座は開設できないというわけではありません。
そのためにはバーチャルオフィスの契約時における厳しい審査を通ることで、銀行の審査も通りやすくする必要があります。将来を考えれば、厳しすぎると思えるような審査にあえて挑むことも必要ではないかと思います。
おわりに
バーチャルオフィスの契約に必要な審査は、本人確認と事業の実態を把握することが目的となっています。
なかには本人確認のためにいくつもの書類提出を求めるところがあります。しかし審査が厳しいと思えるような業者で契約できれば、その後の法人口座開設などもハードルが下がる可能性があります。